GEKIDEN ゲキデン

『倉科遼――その縦横無尽の作劇術、圧倒的多作の秘密……すべてを語る!』

取材・構成/本誌編集部(峯村大作)


◆倉科遼以前――亜流と言われて

峯村 まずはじめに、「司敬」時代から「倉科遼」時代までの、倉科先生の作品観の変遷をお聞きしたいと思います。

倉科 それは世界観? それとも作品のジャンル論? どっちも?

峯村 どちらもお聞きしたいです。それではよろしくお願いします。


倉科 自分が「倉科遼」になった理由は、「司敬」で行き詰まって、漫画家を廃業しようかなと思ったのがきっかけなんだよね。その当時、「司敬」が漫画を描くことに行き詰まった理由は、とにかくもうネタがない、ってことだったんだよ。だいたいほら、漫画を描くためのネタ拾いって、他人の漫画作品を読むとか、テレビとか小説、映画、でしょう。でも、そういうのでは自分はもうダメだろうなと思ってたのね。

 司敬は「学ラン漫画」で売ってました。本宮ひろ志さんの亜流とかコピーとか言われたけど、自分では意図的にやっていたところもあり、当時の編集者の中には本宮漫画の一番の継承者じゃないか、と言われていたほどでした。やっぱり漫画って、売れてなんぼだと思ってましたからね。ちょうど僕らが漫画を描いていた時分って、色々な時代の波があった。『COM』とか『ガロ』とかが出てきたり、一大商業誌のブームがあり。ところがオイルショックがあってからかな、そのあたりから売上がダーッと落ちてきた。その中で、失礼ですけれども、先輩の先生方の作品が全く売れなくなって…。漫画雑誌の廃刊が続いたんです。そんなような、お先真っ暗な状況になると、「結局、漫画って売れなきゃダメだな」っていうところにいくんですよね。じゃあ売れる作品って、どうすりゃあいいんだと。そこで、少年誌では本宮作品が売れているのに、青年誌に本宮先生はいないな、って気づいて、本宮さんっぽい作品を描いたら当たりました、っていうことだったんですけれどもね。

 それを10年近くやってきて、行き詰まった。さて、自分には本宮さんの亜流以外何があるんだって考えてみたら、無かったんですよ。漫画を読んで漫画を描いていたわけですからね。もう自分としては漫画家として売れたピークが一回は来てるし、二度はないだろうと思った。歳は40近くなっていたし……。もう、漫画を描くのはやめようかなって思って、次の人生を考えて、友人と一緒に会社を作ってね。それで外回りの営業に歩いていたら、今まで漫画一筋で机の上の人生しかなかった自分に、「社会」という机の上じゃない人生が見えてきたんです。漫画のネタが山ほどあることに気付いたんです。中でも強烈に、それまで見たことのない社会を見たのが、銀座だったんですよね。

 銀座を見て、パッとひらめくものがたくさんあってねえ。「ジャンル漫画」ってあるじゃないですか。野球とかゴルフとかマージャンとかの。そういう物の見方で考えてみると、夜のネオン街というのは、サラリーマンの人たちが皆、仕事が終わったら飲み屋に行って、その後、女の子がいるお店に行って手を握って口説く世界だと。つまり、そういう世界を描く「夜漫画」ってあるな、と気がついたんですよ。まずそういうきっかけがあった。


 だけど自分でその世界が描けるとは思わなかった。女が描けませんでしたから。
司敬は「おんどりゃあ~漫画」で売ってましたからね(笑)。シャレで「女を描きたいんですけどね」って言ったら、「お前が女って、気でもふれたか?」って言った編集者もいましたよ。しかも会社は始めちゃってるし、親しい連中には漫画家を辞めると宣言してましたからね。  そんな時にたまたま、ある編集が「だったら原作描いてみたらどう?」と言ってくれたんです。作画担当は誰がいい?って訊くから、当時の自分の同期の中で、和気一作という漫画家が、女に関してはものすごくうまいと思ってましたから、和気さんとやりたいと言って。そして原作者デビューということになりました。

峯村 もしよろしければ、それをアドバイスした編集者のお名前をきかせてもらえますか?

倉科 芳文社から松文館に行った渡辺氏という編集です。  

峯村 松文館に縁のある方だったんですか。

倉科  うん。

 それで、ウォーミングアップで、『悪女の鑑』というシリーズを1年ぐらいやるんですけれどね。
その後、じゃあ本番いってみようかということで『女帝』を始めたんですけれども、それがたまたまいい結果が出て。その間、司敬名義では『野望の群れ』という作品を描いてるんですけれど、その連載が好評で終わらなかったんですよ。連載が終わったら引退するって、編集者にも自分のアシスタント達にもそう言っていたんですけどもね。なかなか終われなくて、そんな中、原作を書きだしたら、今度は『女帝』のほうの大ブレイクが始まっちゃって。『野望の群れ』が終わっても、倉科遼のほうの依頼が山ほど来て、漫画を辞めるに辞められなくなっちゃって……。

……熱いトークはまだまだ続きます。続きは本誌誌上を御覧ください!